会社の売り上げを左右する要素と聞くと、多くの人は「サービスのクオリティー」と回答することでしょう。
「良い商品やサービスを提供すれば、消費者に評価されて、業績も良くなる」というのが一般的な見方です。
とはいえ、もう1つの重要な要素として近年注目されているのが「レピュテーション(Reputation)」、つまり評判です。
どれほど良い製品を開発しても、会社として消費者からの評判が芳しくない中で、売り上げを伸ばしていくのは容易ではありません。
一方、「あの会社は印象が良い」「対応が良い企業だ」という好意的な評判を得ることができれば、競合する企業が多い業種であっても安定した業績を残していくことができるでしょう。
実際、「商品についてはよく知らないけれどなんとなく好きな会社」というだけでも、企業にとっては非常に嬉しい評判なのです。
こうした会社の評判を左右する重要な要素の1つとして注目されているのが「CS(Customer Satisfaction)」です。
これは「消費者や顧客の満足度」を意味しています。
例えば、自社が提供するサービスに関して、利用者に対し5段階あるいは10段階評価のアンケートを実施している企業は少なくありません。
「良かった」という評価に関しては、「何が良かったのか」を見極めてその分野をさらに伸ばしていきます。
一方、「悪かった」「満足できなかった」という評価については、「何が不満と感じたのか」を確認して、改善する努力を行うわけです。
非常に多くの企業がこうしたアンケート結果を活用して、商品やサービスのクオリティーをブラッシュアップしています。
とはいえ、多くの人が特定の商品やサービスに関してより率直な感想を述べるのは「SNS」でしょう。
ですから、マーケティング担当者を中心として、SNSを通して発信される情報に対しタイムリーに反応できることがとても重要になっています。
特に、会社に対する批判や苦情など、CSを下げる要因に関しては素早く対処することが求められます。
では、レピュテーションリスクと呼ばれるこの分野に関して考察してみましょう。
■レピュテーションリスクの意味を知ろう
レピュテーションリスクとは、英語の「Reputational Risk」に由来する表現です。
商品やサービスに関するネガティブな評判が広まることで、企業のイメージが悪くなって売り上げにも悪影響が及ぶリスクのことを指しています。
企業にとって恐ろしいのは、事実ではない情報に基づいて悪いレピュテーションが広がってしまうことがあるという点です。
特に、SNSでは、「発信する情報がフォロワーの注目を浴びるか」という点がより重視される一方、拡散する情報が事実かどうかはあまり注目されません。
実際、「いい加減な情報なのだから、そのうち収束するだろう」と考えて対応が遅れ、企業としてのレピュテーションが酷く傷ついてしまったというケースは少なくありません。
ですから、レピュテーションリスクの原因と、リスク回避の方法を知っておくことは非常に重要です。
■レピュテーションリスクが生じる6つの原因をチェックしよう
レピュテーションリスクが発生する主な原因としては6つの点が挙げられます。
1つ目:「社員による告発」
企業が不正な取引を行っている等といった情報を社員が告発することで、会社の評判は瞬く間に悪化します。
例えば、大手ゼネコンが建築基準法違反の工事をしていた、食品加工会社が原料や原産国を偽装していたといった内部告発の事例は、皆さんも聞き覚えがあるのではないでしょうか。
社員による告発は内部からの情報ということもあり、大抵は事実に基づいています。
ですから、レピュテーションリスクを抑制するためには、当然ですが不正な業務を行わないことです。
規模の大きな会社では、社外取締役の人数を増やしたり、その権限を強化したりすることで、不正が起こりにくい環境づくりを進めています。
2つ目:「退職した社員が拡散した悪い評判」
パワハラやセクハラなどの被害に遭い、退職へ追い込まれた人が、転職サイトや掲示板などで以前勤務していた会社の悪い評価を書き込むというケースは珍しくありません。
また、SNSやブログに上司や同僚の実名を掲載して愚痴や文句などを書き込むということもあります。
この場合、退職者の主観に基づく記載なので、情報が常に正確とは言えません。
とはいえ、SNSにアップされた情報は、リツイートによってあっという間に拡散してしまいます。
Twitterを始めとして、人気SNSのランキング上位に表示されたテーマに関しては、ポータルサイトのトップニュースで取り上げられることも少なくありません。
そうなると、取り上げられた企業に対する批判や経営者に対して謝罪を求める声などが上がりやすくなります。
3つ目:「広告の内容が不正確」
「これまでになかった」「画期的な商品」という謳い文句で製品やサービスをアピールする企業は珍しくありません。
とはいえ、説明内容が大袈裟で不正確ということが明らかとなると、その時点から会社への信頼や評価は大きく下がります。
例えば、食品や健康器具などのキャッチコピーについて「誇大広告である」と判断され、行政処分を受けた企業やメーカーは少なくありません。
こうした事態が1度でも起きてしまうと、企業に対する悪いレピュテーションが消費者のイメージにいつまでも残ってしまいます。
そのため、新しい商品を発売しても、「このメーカーは以前にいい加減な商品を発売したから信用できない」という印象を持たれてしまうのです。
このレピュテーションリスクを回避するためには、商品の宣伝においていつも正確であること、また効能や効果・性能などに関して紛らわしい表現を使わないことが大切でしょう。
4つ目:「同業他社の業績悪化」
1つの企業に関して業績悪化が明らかになると、同業他社に関しても「経営が危ない」という憶測が広まりやすくなります。
そのタイミングで、誰かがSNSで「あの会社も危ないかもしれない」とつぶやくと、いつの間にか「経営破綻寸前らしい」という表現で拡散してしまうのです。
その結果、本当に会社の経営が傾くということは起こり得ます。
このレピュテーションリスクを回避するためには、企業として積極的に情報を発信していくことが求められます。
とはいえ、「うちは問題ありません」という味気ない回答はあまり効果がありません。
むしろ、新製品や新しくオープンするお店・イベントの情報などポジティブな情報を提供することにより、巧みに安心感を提供できるでしょう。
5つ目:「バイトテロ」
外食チェーンやコンビニエンスストアで働くアルバイト店員が不適切な言動をSNSにアップして拡散したことで、企業全体が大きな損害を被ったというニュースが何度も取り上げられました。
そうした事件が起こると、消費者としては「あのお店を利用するのは何となくやめておこう」という気持ちになってしまうのです。
また、そうした人材をアルバイトとして採用したことに関する非難や、社内教育に対する疑問の声が企業に向けられ、イメージダウンにつながることもあります。
SNSに一度拡散したデータは消去することが難しいため、1つのトラブルが数年に渡って企業の評判に影響するということも覚えておく必要があります。
6つ目:「消費者からのネガティブな評価」
「店員の対応が良くなかった」「担当者が約束通りの時間に届けてくれなかった」といった消費者の声が広がってしまうと、企業の評判は大きくマイナスになります。
以前であれば、こうしたネガティブな意見はニュースなどで取り上げられない限り、世間へ広がることはそれほど多くありませんでした。
一方、SNSが発達した現代においては、消費者の小さなつぶやきがあっという間に広がります。
それも、国内だけでなく海外までわずかな時間で拡散してしまい、企業の経営にも影響するほどなのです。
ですから、このレピュテーションリスク管理に関する重要性はかつてないほど高まっているといえるでしょう。
■レピュテーションリスクへの保険となる予防策は2つ
レピュテーションリスクを回避する方法は2つあります。
1つ目:「ステークホルダーへの広報活動」
ステークホルダーとは、英語の「Stakeholder」に由来する表現で、企業のレピュテーションに対して、直接的もしくは間接的な影響を及ぼす存在すべてを指します。
例えば、従業員や各仕入れ先は会社の業績に直接影響があります。
また、株主や顧客の意見も企業の評判に大きく影響するので、ステークホルダーに分類できるでしょう。
より幅広い意見を参考にすることで、企業のレピュテーションリスクを下げることができます。
例えば、従業員へのアンケートを実施する際には、正規労働者だけでなく、パートやアルバイト、派遣社員なども対象とすることをおすすめします。
これにより、社内における実情をより詳しく知ることができるでしょう。
寄せられた回答内容に応じた対策を講じるなら、内部告発や退職者が広める悪い評判などのリスクを抑えることができるはずです。
もちろん、調査を匿名にして、社員が安心して意見を述べられる環境を整えるということも大切ですよ。
2つ目:「エゴサーチ」
エゴサーチとは、英語の「Ego Surfing」に由来する和製英語で、Googleなどの検索エンジンを活用して、Twitterを始めとするSNSや口コミサイト、ブログなどで自社の商品やサービスがどのように評価されているのかをチェックするという手法のことです。
実際の検索では、企業名をキーワードとすることもあれば、商品名や特定のサービス内容を入力することもあります。
エゴサーチを実施する最大のメリットは「ユーザーの評価をリアルタイムでチェックできる」という点でしょう。
一般的なアンケート調査の場合、時間をかけてデータを集計し、そこから重要なデータだけを抽出して報告書にまとめるというプロセスになります。
ですから、集計結果はリアルタイムの情報とは言えません。
一方、エゴサーチでは、消費者がSNSなどで発信した情報をリアルタイムでチェックしています。
その中で、企業の悪い評判や従業員へのクレームなど、レピュテーションに影響を及ぼす情報に関しては、すぐに担当者を通じて経営陣へと報告されます。
ですから、情報の鮮度は非常に高いのです。
また、エゴサーチでは、キャッチした情報に対してスピーディーに反応することが可能です。
実際、多くの企業はエゴサーチを実施するだけでなく、好意的な評価に対しては感謝のメッセージを残し、ネガティブな評価や意見に対しては「このように改善したい」という回答をしています。
正当な根拠があるクレームに関しては、誠実な謝罪をSNSや公式サイトに掲載するというケースも珍しくありません。
一方で、事実ではない悪意のある情報に関しては、法的処置を含む断固とした対応を取っています。
TwitterなどのSNSではリアルタイムで情報が発信され、次々にリツイートなどで情報が拡散されていきます。
ですから、レピュテーションリスクに関わる情報に関しては、早急に対応する必要があるのです。
アカウントが炎上するほどの事態になったものの、スピーディーな対応により企業の評判を守ることができたというケースは少なくありません。
中には、「神対応」という評価を受けて、会社としてのレピュテーションが向上したという事例もあるほどです。
多くの企業がSNSの担当部署を設けている一方で、エゴサーチの担当者がいる企業はあまり多くありません。
なぜなら、エゴサーチへの対応にはSNSの運用とは異なる専門的な知識が求められるからです。
そこで便利なオプションとなっているのが「エゴサーチのアウトソーシング」です。
レピュテーションのリアルタイム監視を専門に扱う会社と契約することで、ステークホルダーの持つ意見をスピーディーに知ることができます。
また、企業の評判を保護するための実際的なアドバイスを受けることも可能です。
こうしたサポートは、企業のブランディングやマーケティング戦略において「保険」としての役割を果たしてくれることでしょう。
エゴサーチを委託する際の料金は、検索するキーワードの数や実行頻度、分析する内容などによって異なります。
また、SNSを検索対象とする場合には、幾つのSNSを監視対象として指定するかによってもコストは変動するという点を銘記しておきましょう。
■関連記事